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国内で活躍する同窓生(敬称略)


山地 治 (昭和 46年卒)    岡山県岡山市在住
昆虫採集とレッドデータブックと野生生物目録

筆者近影
趣味の昆虫採集のこと


 1966年5月1日、中学生物部と引率の先生を乗せた蒸気機関車が岡山駅を出発しました。高梁駅で降車した我々は近くにそびえる備中松山城を有する臥牛山へと向かいました、昆虫採集が目的の日帰り旅行です。


当時まだ山道しかなかったふいご乢(峠)のあたりでH先輩がなにか珍しいカミキリムシを採ったと話していましたが、なんのことやら分からない私は、ただ何か昆虫を見つけられないかと周りの葉っぱなど見ていました。
その時見つかったクビアカモモブトホソカミキリというカミキリムシは当時奈良県春日山だけから知られていて、世界で2か所目の発見だったことは後で知ったし、自分で採ることができたのはもっと後のことになります。


 朝日高での3年間は化学部に所属していましたが個人での採集は続いていました。
2年生の夏には隣家からの延焼でそれまで持っていた標本が失われてしまいましたが、昆虫採集を辞めることはなかったです。朝日高のグランドの隅で採集したエゾカタビロオサムシの標本は今でも標本箱の中に残っています。


 大学時代もカミキリムシに熱中していましたが、そのころから昆虫の中でもカミキリムシやカブトムシ類を含む翅の硬い甲虫と呼ばれるグループ全体が好きになっていました。

ケブカマルクビカミキリ 岡山県産甲虫目録2012-401p

 社会人になった頃から県内にはどのくらいの種類の甲虫が居るんだろうと思い、仕事の合間に記録の載っている文献を漁りながら少しずつ入力していました。ちょうどパソコンが普及する時期と重なったことで、個人でも大量のデータが扱えるようになったのが助けになりました。


 いつのまにか10年近くが経ち一応の区切りがついたと思ったので、1997年に知り合いの会社から岡山県産甲虫目録を出版してもらうことが出来ました。その時点で県内から記録のあった甲虫の種類数は2973種でした。その後発表された文献の入力も続けていて、2012年に出版した目録では3540種に増えています。それら中には私が採集して記録した種類も入っています。趣味で何かしようとしたら10年がかりですね、いや20年か。



レッドデータブックのこと


 ずっと昆虫にかかわって来たおかげなのか岡山県のレッドデータブック作成に参加することになりました。


 レッドデータブックとは、絶滅の危機に瀕している野生動植物の名前を掲載し、その危機の現状を訴え、個体や生息地などの保護・保全活動に結びつけようという目的で出版される報告書です。国際自然保護連盟(IUCN;International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)が1966年に、世界の絶滅のおそれのある野生生物をレッドリストとして初めて公表したのが始まりです。この第1版の表紙が赤い色をしていたことから、絶滅危惧種の掲載図書やリストは、それ以降、レッドデータブックやレッドリストと呼ばれるようになりました。(http://jpnrdb.com/history.html より)


 日本では環境省(当時は環境庁)が、日本版レッドデータブックの編纂を推進させ、1991年以降から、植物、両生類・爬虫類、昆虫類、その他無脊椎動物の主要な生物群について整備を行い現在に至っています。


 岡山県では、1998年から作成準備が始まり、2003年に“岡山県版レッドデータブック -絶滅のおそれのある野生生物-”として発行され、2009年、2020年と2回目の改訂版が出版されています。作業は植物、動物、昆虫の3部会に分かれていて各部会は約10人ずつで構成されています。私は昆虫部会に所属しています。
昆虫も動物だろう、と言われればそうなんですが、生物の膨大な種類数の約半分が昆虫なので分かれて作業しました、作業量が半端ではないのです。
今回2020年版では、絶滅の危惧の程度に応じて絶滅・野生絶滅・絶滅危惧Ⅰ類・絶滅危惧Ⅱ類・準絶滅危惧・情報不足・留意としていて概ね国の基準に準じています。
 岡山県版レッドデータブックと野生生物目録


 野生生物の種の現状を知ることは実際難しく、行政などの公的機関の調査だけでは到底追いつかなく、自然に興味のある人たちの積み上げてきた情報、各種同好会的な雑誌に残された記録に頼るしかないのが現状です。
ばらばらに記録された紙媒体の記録を収集整理しデータベースに取り込み、種類別、年代別に整理し、過去からの推移を検討するという作業が必要でした。


 前述のクビアカモモブトホソカミキリは2003年版では準危急種、2009年版では準絶滅危惧ですが、2020年版では指定から外れています。これは2003年版で設定した岡山県独自のカテゴリーを2009年版では国や他県のカテゴリーに合わせたためで、2020年版では再検討の末、分布域は限られているが絶滅の恐れというのとは異なるので、レッドデータ種の対象からは外しました。
データの収集整理が進んできたため、より減少の大きい種類を対象にするべきだという考えになってきています。



野生生物目録のこと


 それぞれの回のレッドデータブックの資料として検討されたデータを基にして毎回、岡山県野生生物目録という書物が発行されています。岡山県内にはどのような種類の野生生物が生息しているかという目録です。
私が関係していた昆虫では2003年7673種,2009年8656種、2019年9724種となっています。


 この野生生物目録は岡山県のHP上では毎年更新されていて2022年の更新では昆虫は10000種を超えることになる予定です。これは新しく採集記録された種類、文献上のデータの収集、分類学上の研究によって種が確定(学名の記載)されたことなどに寄っています。回を追うごとに精度は上がっているのですが、県内とは言え少人数でなおかつ年数回から数十回の調査では地図の上に点を並べているだけで、分かってないことの方が大きいというのは知っておかなければなりません。


 岡山県の自然環境がどう変化してきたのか、これからどう変化していくのかいろいろな分野の人たちが見つめています。
キベリマメゲンゴロウ

減ってきている種類もあれば、増えてきている種類もあります。一度確認出来なくなって最近になって復活してきたと思われる種類もあります。


 今年の5月、少し時間があったので岡山市内の旭川の河原に行ってみました。水際の石を除けるとゲンゴロウの一種が多数出てきました。
岡山県のレッドデータ種にしていますが、最近他の河川でも同じような環境で多数を見ることがあり、どうやら次の改定ではランクの見直しが必要になりそうです。


 行政の発行するレッドデータブック、電話帳のように厚い書籍ですが、実はこのような小さな発見、特にアマチュアの人たちの好きだからやっていることに支えられています。


 中学生のときの臥牛山の採集旅行から時間だけは過ぎ去りましたが今もそう変わらない私がいます。
私の職業は?普通の会社員でした。仕事以外のもう一つの仕事?についてお話させていただきました。





   
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