私は現在、兵庫教育大学で教鞭をとっています。専門はピアノです。本学の学部学生は、ほとんどが教員志望です。ピアノ実技は全員必修で、教員採用試験までに、「何が何でも弾ける」学生を育成するのが一つの責務です。大学院は現職の教員も多く在籍され、朝日高の先生もかつていらっしゃったと思います。院生さんの年齢のほうが教官より上↑という現象もしばしばあります。
小さい頃から高校は朝日!と決めていましたので、総合選抜の選択も「第一志望
朝日」「第二志望 朝日」と実際に書きました。何といっても制服が気に入っていました。今でも街中で朝日の制服を着た後輩の姿を見ると、思わず笑みがこぼれます。
当時の先生方は意気盛んで、名物教師が大勢おられました。英語の故広畑修先生もそのお一人でしたが、自宅の方向が同じということもあり、時々ご一緒に帰りました。「ほんまは、歩道橋を渡らにゃあおえんのぞ。こりゃあ、悪りぃ例じゃ。」(良い子の後輩は真似しないで!)と言いながら、徒歩の私に合わせて自転車を押して下さいました。
朝日の行事の日程はなぜか拘りがあったようで(現在も?)、卒業式も同様で、私はまだ受験が終わっておらず、出席できなかった残念な思い出がありました。それをご存知だった広畑先生は、ご子息の卒業式に「保護者席ぃ、座っとれぇよ。」と出席させて下さったのです。あの日が私の本当の卒業だったように思います。
私はピアニストを目指していましたので、高校では勉強もそっちのけで、ピアノの練習に没頭していました。それでも練習時間が足らず、昼からそーっと自主早退して「新山はどけぇ行たんなぁ」と言われるものの、先生方はわかっておられ、そのつど寛大に見逃して下さいました(良い子の後輩はけっして真似しないで!)。
同級生にもどれだけ宿題や試験の「ヤマカケ」のお世話になったかわかりません(外れた時は悲惨!)。授業のノートもよく貸してくれました。皆、変にエリートぶらず助け合いながら過ごした高校時代が、私にとっては最も楽しい青春でした。
卒業してもそれは変わらず、地元の岡山でリサイタルを開いた時も、印刷物や当日の準備、県知事・市長に祝辞の依頼、チケットをさばいてくれたり、プログラムに広告を出してくれたり…、それぞれの立場で立派に活躍している同級生の頼もしい協力のおかげで実現できたと、誇りに思っています。打ち上げも、S.53年卒の同窓会さながらでした。先生方も駆けつけて下さいました。
高校時代は勉強から遠ざかっていた私ですが、大学の教員になった直後から、その代りほど慣れない研究を強いられました。演奏畑の人間が言わば180°違う世界でも勝負しなければならない状況下におかれたのです。「研究なんて絶対無理!」と思い、私を育てて下さった師匠(作曲家)に相談しました。
ところが、「君、朝日出身だろう?できるだろう。」と言われ、もう覚悟を決めるしかないと思いました。昼間は授業や会議の合間を縫って練習し、夜は研究という生活を何年続けたでしょうか・・・
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そんな甲斐あってか、この度「音楽表現における準備技法論
−ステージ・フライトを乗り越える−」(あいり出版)という学術書を初めて出版しました(山陽新聞 H.21.5.23付掲載)。母校の図書館に寄贈できたことは、この上なく光栄に思っています。
しかしこれも、元をたどれば朝日と深く関わっています。英語の宇根廣先生が、当時まだ敷地内にあった烏城高校の校長で、音楽の非常勤に来てくれないかというご依頼を頂きました(これがご縁で、烏城高校が現在地へ移転した時,新しい校歌の作曲のご依頼をいただきました)。
後に、同僚の先生が本学の大学院に内地留学され、リラクセーション技法の自律訓練法を、学生のために授業で実施して下さり、その学習効果を共同研究させていただきました。
そして、この技法を演奏の世界に初めて応用し、舞台での「あがり抑制法」として単著にまとめることができたのです。
自分の生涯で本を出版するなんて夢にも思わなかったのですが、ここでも、「先生、朝日出身でしょう?書けるでしょう。」と教授に強く薦められて書かざるを得なかったというのが実状です。「ぅわ〜っ、またそうくるんじゃ」と思いましたが、結局、朝日のおかげ(!?)と誇りにかけて、実現できたことを嬉しく思っています。 発刊されて、沢山の同級生が喜んでくれ、真っ先に“お祝いの会”を開いてくれました。本当に感謝しています。
在学当時、平日でも6時間、8時間と勉強している同級生のことを、私たちは「鬼じゃぁ」と冷やかしていましたが、心の中では皆尊敬していたことを憶えています。今は、私もお休み返上で「鬼じゃぁ」の生活をおくっていますが、それもまた懐かしく、今がむしろ私の朝日校生そのものかもしれません。
ある大哲学者が「大学というところは、大学へ行かれない人のためにある」と感動的な主張をされています。私も倣って「研究は、研究できない人のために行う」との思いで、これからも、“朝日”の名に懸けて、人の役に立つ研究を続けていきたいと決意も新たにしています。
最後に、このような機会を与えていただいた関係者各位に、心より感謝申し上げます。
<略経歴>
愛知県立芸術大学音楽学部音楽学科器楽(ピアノ)専攻卒業
文化庁芸術インターンシップ岡山県第1号研修員修了
各地でピアノと電子オルガンによるリサイタル開催
オーケストラとの共演の他、作曲・編曲活動も行っている
岡山県立烏城高等学校校歌作曲
主要研究分野:音楽表現に直結した保科理論に基づく楽曲分析・演奏解釈
日本クラシック音楽コンクール審査員
現在、兵庫教育大学大学院准教授
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