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国内で活躍する同窓生(敬称略)
三塚 典子(昭和51年卒) 東京都目黒区在住

出会った仕事、出会った言葉 − 版権ビジネス遍歴

1993年 フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドにて。
10ヶ国から研修に参加したメンバーで
すが、ここではすっかり観光客気分に。

 私が新卒で就職したのは今で言うNGOでしたが、約4年後に小規模な広告代理店に転職しました。会社の業務の一部に海外演劇の上演ライセンス斡旋があったのが、大学時代にESSドラマセクションに所属していた記憶をくすぐらなかった、といえば嘘になります。

 第一子を出産後も、男女雇用機会均等法施行以前ながらしぶとく在勤するうち、英国人ボスのアシスタント役が空席になりました。

 なしくずしに後釜としての仕事をこなすうち、そのポジションの担当だった演劇の版権代理の仕事があれよあれよという勢いで成長し・・・ おかげでいつのまにか、なくてはならない、とまでは申しませんが「子持ちだがいないよりはいてくれた方がいい」にまで昇格したのは幸運の極みと申せましょう。

 周囲の理解と協力のありがたさもさることながら、必要にせまられたおかげで英語の表現やらタイプの速度やらが飛躍的に向上したのはもうけものでした。

 この仕事で出会った英国の演出家の言葉が、今に至るまで印象に残っています。いわく、「オーディションは適性をみるもので優劣をつけるものではない。日本の俳優さんはオーディションで落とされると評判を気にするらしいけれど、あくまで役と役者の相性をみるための機会なのだから、『評価』ととらえる発想から脱して欲しい」とのこと。

1995年 ボローニャ児童書見本市、ディズニーのブースにて。

 これは日常生活全般に使えました。他人から低い評価を下された、とは思わず、「私はこれには向いてなかったんだ。となると、人より向いてるのは何だろう」という検証のチャンスだと考えるようになったのです(我ながら能天気…ではなく楽天家だと思いたい)。

 その後、バブル経済が終焉を迎え、ワーキングマザーには厳しい環境となって次の職を探すことに・・・そこで運良く出会ったのがウォルト・ディズニーのキャラクターライセンスの仕事です。

 今でこそ「キャラクター」や「ライセンス」という言葉を耳にされた事のある方も大勢おいででしょうが、当時は「キャラクターの使用を衣類や文具メーカーにライセンス許諾する仕事です」といった説明で相手に理解してもらえることは稀で、「ウォルト・ディズニーの・・・」と聞いただけで自動的に「テーマパーク勤務」と解釈されたこともたびたびありました。

 ここでの担当は出版ライセンスでしたが、他のスタッフのキャラクターにかける愛情とプロ意識にはとにかく圧倒されました。自分の扱っているキャラクターが大好きなのです。ライセンスで扱うのは映像作品から生まれたキャラクターの二次利用になるわけですが、映画製作のスタッフにも劣るまいと思われるほどの情熱を、商品化での造形や世界観の再現に注いでいました。

1995年 ユーロディズニーランド
(現ディズニーランド・リゾート・パリ)
お城は「眠れる森の美女」が
テーマで、東京のシンデレラ
城とずいぶん趣が違います。

 絵や立体はもちろん、言葉による表現にも同じような愛情と知識と厳正さが要求され、かくして1929年に誕生したミッキーマウス以降の、あまたの映画の登場キャラクターたちをそらで説明できるようになった次第です(今では大半は忘れましたが・・・)。ゲームに詳しい最近のお子さんに比べれば他愛のない話ですが、こちらはそのキャラクターに食べさせてもらっている立場ですから、正確を期さないわけには参りません。

 その過程で、アニメ映画の脚本がその時その時のアメリカの国情や時代性を反映しているのに合点したり(歴代のプリンセスの性格にも現れていますよね)、キャラクターの名前の由来に英語の言葉遊びを見つけて喜んだり(シマリスのチップとデールの名前の由来をご存知でしょうか?)・・・それはかつて学んだ事を活かす、というよりはむしろ、終わらない勉強をしているようでした。

 その後また転職を経て、2008年現在はフリーランスとして、絵本のキャラクターの商品化ライセンスに携わっています。出版物であれば商品形態も流通経路もある程度定まっているのに比べ、Tシャツ・ぬいぐるみなどの定番からウェブコンテンツまで広範に扱うことになり、技術の進歩と商材のバリエーションに戸惑いつつ日々を送っています。特に携帯電話のコンテンツに関しては、毎回「これは何?」と若い人に尋ねては新機種で機能を実演してもらっている体たらくです。

 この仕事では、キャラクター商品の監修を担当しているアーティストの「意欲と能力は別もの」という一言がグサリと来ました。デザイナーから提出されたスケッチを見て「この人が表現したいことはわかるんですけれど、いかんせんそれを実現するだけの技量が伴ってないですね。プロならば意欲だけではできないことがあるのを自覚して、ちゃんと精進しないと」ということだそうです。かくのごとく、勉強は一生続くのです。

現在の職場環境。(お店じゃありません。出版社のサンプル室です)

 これまでずいぶん失敗もしているのに、ふりかえってみるとなぜか充実していて、経験できてよかったなあ、という記憶ばかりです。

 そういえば大学時代に参加した就職セミナーで、キャリアを積んだ先輩が「『楽(らく)』と『楽しい』は両立すると思うべからず」とおっしゃっていましたが、長い目で見れば、苦労してでもやりたい事を選んだ方が、やっていて楽な事より充実感があって、結果的に「楽しかったな〜」と思い出される気がします。

 思い出をたどるうち、つい自分の子供に「昔はこうだった・・・」と諭している気分になってしまって赤面しますが、もし拙文を通じて版権ライセンスの仕事に興味をひかれた方がいらっしゃればこの上なく幸いに存じます。


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