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世界で活躍する同窓生からのメッセージ(敬称略)
武部 磨美 (昭和63年卒) フランス パリ在住

 

天 敵! 高 校 生

エッフェル塔
筆者がほとんど行かない場所
でもやっぱりきれいです。
 実は、朝日高にはそんなに思い入れがない。そもそも私は、カッターシャツにきりりとネクタイを締めた夏服(当時)に憧れて、操山に行きたかったのだ。 翻意したのは、「学校は近い方がいいぞ。寝坊したときのことを考えてみろ。朝日は操山の半分の通学時間で済むぞ」という父の一声による。
 その7年後、やはり操山受験を希望した弟を、同じ台詞で変節させたのはこの私だ。思い入れ無く入った学校には、思い出も少ない。記憶にあるのは、毎朝欠かさなかった全力疾走自主トレが功を奏して体育の成績抜群だったこと(弟も同様)や、容姿端麗・頭脳明晰・明朗快活な少女として近所でも評判だったことのある友達がいたということくらいか。

 が、なぜか卒業してから、高校にまつわる悪夢に苦しめられるようになった。これがまた、生物の授業をサボり過ぎて大学入学が決まっているのに卒業できないだとか、数学の授業をサボり過ぎて大学入学が決まっているのに卒業できないだとか、出席日数自体が足りず落第になるなど、まるで体験したかのように具体的且つリアルな夢なのだ。
 断っておくが、私は数学の時間をサボったことはない。数学は、ない。このようにまるで身に覚えのない悪夢を、毎年5、6回は見るのである。見過ぎである。朝日は私に何の恨みがあるのか!?
凱旋門
筆者が滅多に行かない場所
 
 自分自身の高校時代があまりぱっとせず地味に過ぎたせいで、高校生が愛だの恋だの人生だのを語ったり、高校時代の初恋が主人公のその後を決めてしまうような設定のテレビドラマなど見ると、白々しさを通り越して憎悪まで湧いてくる。そんな出逢いが私にあったなら、今頃パリの移民街で結婚浪人(筆者命名)などしてはいない。大体、日本の高校生は、何かと話題にされ過ぎ・もてはやされ過ぎだ。
 私だって高校生のときに世間から注目されてみたかったさ。注目されるべく不良少女になることも考えたが、目張りされ「A子(仮名)」にされたのでは意味がない。大体私の名前には「子」がつかない。
 ルイヴィトン本店前
筆者が年に1,2度、日本からの旅行者に頼まれて
しぶしぶ足を運ぶかもしれない場所。
観光客の他、バイヤー(転売業者)も多く、筆者はなぜかいつも
バイヤーに間違われ、じろじろ睨まれるはめになる。
 ここパリでも、日本人高校生は注目されることがある。修学旅行生が制服の集団で闊歩していればいやでも目立つものだが、それが決まってオペラ座界隈の高級百貨店内だのシャンゼリゼのブランド街だの、私自身滅多に行かない(行けないのではない)上流な場所とくれば、まったくもって腹立たしい。
 日本人にとって旅行土産は伝統的慣習であるし、せっかくフランスに行くのだからと親が子どもに大金を渡すのかもしれないが、“無収入の学生は質素たるべき”という意識の強いフランスでは奇異に映るだけである。
 私の知人は、シャンゼリゼ大通りで、自由行動の修学旅行生達と、ほぼ50メートル毎に立って彼らを監督(監視?)しているらしき教師達の姿を目撃したことがあると言うが、言葉も勝手もわからない外国で何かあった際に教師自身対応できるのだろうか。
 まあ、高校生自身は学校側に連れて来られただけで、「何かおかしい」という自覚も無いのだろうが。とにかく、朝日高には、是非今後も外国への修学旅行はしないでほしいと切に願うものだ。

  その点、フランス人の高校生はなかなかしっかりしている。一部、青少年犯罪も問題になっているが、主体性も自立心も大人顔負けだ。生徒自ら中心となって「教育改善」を訴え全国規模のデモをすることもしばしばある。教育の質を向上させるために、教職員の給料値上げまで要求するのだから、驚嘆してしまう。
 
  サンジェルマン・デプレ教会
学生街にあるパリ最古のロマネスク教会
筆者がたまに通る場所



カフェ デュ・マゴ
サンジェルマン・デプレ教会前にある有名カフェ
かつてはサルトルやボーヴォアールら
実存主義者達や学生の集うカフェであった。
今では高級になりすぎ、店内ではとても勉強できない。コーヒーも高い。


  私の仕事のひとつは日本語教師だが、昨年はある日本語学校で、フランス人高校生のための特別夏期講習を受け持った。受講したのは20人弱。

 ところで、日本の漫画・テレビアニメはフランスで次々に翻訳され、地方都市アングレームでは毎年漫画フェスティバルも開催されているなど、今や若い世代には欠かせない娯楽として普及しているのだが、この夏期講習受講生達も、全員がそうした漫画ファンであった。
 動機はともかく、高校生にとっては貴重な筈の夏休みの数週間を、学校の勉強以外の語学学習に費やそうというのだからまったく大したものではないか。日本の親も、こういうことにお金を出してやってほしい。

  さて、そのフランス人高校生達であるが、日本語そのものは初めて学ぶにも関わらず、彼らの日本に関する知識は相当なものであった。
 「私は〜です」という自己紹介文に好きな名前を入れさせたところ、「サクラ」と入れた女生徒がいたが、その生徒からの質問が、「桜の樹の下には死体が埋められているって、本当ですか?」。
 また、「今日は暑いです」という文を教えたら、関連質問が、「『キョウ』って、『首都』という意味もありませんか?」(=京)、「『キョウ』って、『不運』という意味でも使いますよね?」(=凶!)。
 前者の質問については、「そうです、天皇の住まいがあった街を『京』と呼び、だからつまり『首都』ということになります。近代になって、天皇の住居が現在の京都から江戸に遷り、江戸は東京と名前を変えました」とごく簡単な説明で済ませるつもりが、「なぜ遷ったのですか?」と更なる質問をされたことから、天皇・摂政政治、武士の台頭、幕府の誕生、鎖国、そして明治維新と、日本史講義をするはめに・・・・。
 その最中にも、彼らは嬉々として自分の知っている歴史人物の名を叫んでいた。「ゲンジ! サムライの起源ですよね」、「ショーグン・アシカガ、知ってます!」、「ミヤモト・ムサシ!」、「オダ・ノブナガ!」、「裏切ったのはアケチ・ミツヒデ!」、「トクガワ・イエミツは、イエヤスの息子でしたっけ、孫でしたっけ?」(・・・・そこまで知っているなら、私に日本史講義などさせないでほしいものだ)。
 はたまた、色の名前を日本語で知りたいというリクエストに答え、「赤」、「青」、「緑」と教えていたら、「クレナイも、赤の一種ですよね?」という質問は良いとして、「スオウも赤じゃなかったですか?」と訊かれたときには、教室から逃げ出したくなったのは言うまでもない。
 パリ19区の中華街
筆者がしょちゅう出没する場所、生活圏

 梶井基次郎の小説、日本史の流れ、古色の名・・・・生徒の質問に対応できた私の知識は、全て、高校で詰め込まれたものだった。古文で立たされていて良かった、日本史で赤点を取っておいて良かった、生物をサボって良かった。私は今、自分の朝日時代を誇りに思える。

  ところで、このときの受講生のひとりから後日メールが来た。
「お元気ですか? ところで、質問があります。釈迦が死んだときに傍にあった樹の日本語での名前を教えてください。また、その樹にまつわる『世界に永遠は存在しない』という意味の古い詩があると聴いたんですが、ローマ字でその詩を書いて下さい。それに翻訳もお願いしますね! それでは、お返事待ってます」。
・・・・・やっぱり高校生は嫌いだ。


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