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国内で活躍する同窓生(敬称略)
岡 文女(昭和36年卒) 岡山県在住

羊からの贈り物

朝日・操山・青陵 美術展 (高校当時)

 私は、昭和36年朝日高校「美術部」卒業です。
 坂手先生の美術の授業に、展覧会鑑賞があり、学校を抜け出して天満屋、文化センターまで出かける楽しい時間がありました。伝統工芸展で、志村ふくみさんの紬を見て織物は面白そう、年をとったらやってみようと何となく思ったのが織物との出会いです。*****


 当時は、絵を描かない人生など考えられないと思っていたが、今や機織りで明け暮れ、飽くことなく続け、今日に至っている。と言うものの、すんなり機の道に入ったわけではない。
 再度の受験の失敗に始まり、家庭料理の研究家辰巳浜子先生の知遇を得、鎌倉の辰巳邸へ住み込みの修行、その他色々、あれも駄目、これも駄目と回り道をし、独学で織機を動かし始めていた。疑問点を先達の方々に教えを乞いながら深入りしていく。
 倉敷民芸館附属の「本染手織研究所」の聴講生として、外村吉之介館長より柳宗悦の民芸美論の講義を受ける。これは、以後私の生活全般の規範となる。
 そして、いつの間にかホームスパンに重きを置くようになっていた。ホームスパンとは羊の毛を染めて紡いで織る、毛織物の総称。羊の毛を利用した西洋版の紬のようなものだ。私の織っている物は、マフラー・ストールなどの小物で、全ての工程を一人の手仕事でこなしている。工程を説明しよう。

原料の羊毛
羊は世界中にいるが、手仕事に向く原種をよく保っている英国産の羊の毛を使っている。
羊は白いとの先入観があるが、黒・茶・灰色と、色のついた毛も沢山ある。

染色
染色 染めた原毛を天日で干す
殆ど草木を利用。
工房を取り巻く野山にある蓬、団栗、矢車、栗の花・イガ・小枝等を時を逃さず採取し、色調を自然の恵みに託している。
珍しい物としてはコチニール(食品添加物として使われるようになったサボテンにつく貝殻虫の一種)、インド産あかねの根、カテキュウ等を使う。
庭の置きくどで大釜一杯を薪で煮出し、染める。
火の周り、当たりが柔らかいのと、熾きの余熱のおかげで、万遍にむらなく染め上がる。
釜で炊いたご飯は美味しいと言われるが、まるでそれを目で確かめるようだ。
これで絵の具の素ができたようなものだ。

カード
染め上がった羊毛を、色をパレットの上で混ぜ合わせて作るように調合し、紡ぎ易いようにほぐす。
これをカードという。
この工程だけは機械に頼る。有難いことに、日本に三台しかない珍しい機械が早島にある。
全工程でこの色作りが毎回、ワクワクするくらい楽しくて好き。布団綿のようになって、やっと糸に紡げる状態になる。

紡ぎ
糸車
紡ぎあがった糸
スピニングホイール(糸車)を使って原毛によりをかけ、糸にする。
昔の女の人は誰でも織った。ともかく単純作業の連続だ。
織物というと、機に座って横糸を打ち込む織る作業のことだと思われるが、染めたり紡いだり、糸を機にかけるまでの細々とした仕事が大変で、時間と手間がかかる。
紡ぎは気長に根気強く毎日毎日繰り返し、少しずつ糸を貯めていく。

織り


糸ができたら、経糸をデザイン通りに機にかけ、横糸を入れていくと糸が面に変わって布になる。
機から外し、糸の補修などをしていく。

縮絨(しゅくじゅう)
縮絨という最後の工程に入る。これは毛のセーター等、縮んでフェルトになる性質を利用する。
熱い石鹸液につけて揉み、布目を縮めて、フワッと柔らかく手触りのいい風合いを作る。
糸を始末してやっと出来上がる。出来た布は、個展をしたり、委託で店に出して売って頂く。

作品展
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 自然の中で、織ることと暮らすことが一つの生活、心ゆくまで機を織りたいと、田舎に工房をもって35年になる。変わらず安定供給が続いていた原材料の羊毛に陰りが出てきた。古くはチェリノブイリ、爆風が対岸の英国に渡り、私の好きな羊の毛がダメージを受け、復活には10年以上掛かった。そして、地球温暖化による干ばつで、オーストラリアの羊は大変みたい。今年はとうとう価格が変動した。

 美しいという字は大きな羊と書く。地球が平和で美しく、羊は大きく肥り、私は身ぐるみ剥いでの羊からの贈り物を紡いで紡いで、美しい布を織り続けたいと思っている。

岡山市瀬戸町大内
      

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