● 北から南から ●

全国で活躍する同窓生からのメッセージ(敬称略)

近藤 敬寿  (昭和36年卒) 東京都昭島市在住

少年の日のダイヤモンド


 

拝島大師の藤と筆者

始めに

 この春、母校の横顔「岡山朝日高 2004 ASAHI」と「学校要覧 平成16年度」をいただいた。その表紙を拝見している。グラウンドを一望する航空写真である。
北側、野球のダイヤモンドを第一ブロックとすれば、レフト、センター、ライトのフィールドと合わせ、四つのゾーンが東西両翼に抱えられて南北に延びる。
斜め上空から射しこむ対角線の目が、グラウンド全景をも東西南北を頂点とする一回り大きい相似形のダイヤに見せる。


1 「朝日高Now」

 ネット上で楽しい情景を拝見する。和気の藤まつり。日本一のコレクションに拝島大師(当地、昭島市)の藤も仲間入りしていると聞く。
 野球部の写真を見るといまだにうらやましい。グラウンドの一角で草野球に興じる中学生に入部の声がかかったことがある。恐れ多かった。思い出すといまだに緊張する。


2 昨日、今日から明日へ

 歴史とは上空の飛行機から地上の列車の進行を見るようなものと聞く。
戦後60年。グラウンド周辺の焼け跡コンクリートゾーンに雑草がはびこる時代の朝日高の光景。コークス混じりの東西南北の各コーナーが、はだしの子供たちに足裏の記憶を残す。柔道場北のクローバー香る祇園用水沿いの広場は、ビロードを踏むような別天地であった。
 夏の日課は、蝉取り網を「痩骨の肩」に掛け、校庭一周。往路は南門からトラック沿い、桜の隊列が主戦場。弓道場前、神秘な「おくのほそ道」で「くもの古巣」を払い、復路の正門へ。
 何年にも亘る夏休み、校庭の周囲を小学生が踏み固めた ”My Way”。”Beat around the bush” − 遠回りのアプローチ。上空から見れば、四角なグラウンド外縁に、無心の円周を描いていた頃。“On the beat” ― “踏み固めた道を”おまわりさんが警ら中 −という英熟語に、高校になって出合う。”After Twenty Years”(O.Henry短編集)の中である。
 やがて野球部の練習に惹かれる。外縁の円周上を歩いていたのが、中心点に近寄った。グラウンドレベルの低い目線で横から水平に眺めるのであるから、鳥瞰図で上空からダイヤモンドの形をつかむ想像力はない。目前に白く輝く真っ四角の中心にひときわ高いマウンド。広く扇を開いて守りを固めるレフト、センター、ライト。
 この聖域へ入場を許されたのは、小六の夏の町内対抗野球大会。晴れがましい光の下、滑らなくてもいいホームインのスライディングで、きれいな白い砂ぼこりを上げた。


3 円周からダイヤへ

 改めて航空写真を見る。四角なグラウンドが、ピッチャー、キャッチャー、センターの中央線を背骨にして両翼に広がる。これが、斜め上空から射し込む視線で菱形のダイヤを作る。その北の頂点には投手のマウンドを囲む内野のダイヤモンド。新時代のプレーヤーたちのキャッチボールが見える。

 さて、かつての子供達はどうしたか。聖域のグラウンドは近寄れない。
小中学生がお目こぼしにあずかれるのは、南門前の広がりである。100メートル・トラックのスタートラインの一角がホームベースとなる。北門と南門を結ぶ対角線上、バックネット前のホームプレートから見ればセンターラインの延長線上の彼方、南門側の対極である。
 ベースは草の根。又は地面にバットで四角を描くだけ。そのひとつひとつが 小さな世界のthe four corners of the earth(津々浦々)であり、ターニングポイントをもたらす。
北の極での観覧者が、南の極でプレーヤーとして光彩を放つ瞬間と空間。ホーム寄りの地面は桜並木の木陰で、湿りを帯びて黒光りし滑りやすい。スライディングしても白く気高い砂ぼこりは上がらない。立ちあがってユニフォームの砂をパッパッと払う贅沢はないが、ズボンに残る黒いシミが、勲章。陰影の深いダイヤモンドの輝き。
 このように親しんだ原風景ともいうべきフィールドの広がりを、戦後60年の眼下に見せてくれる大空からの写真に感動と感謝の念を深くする。

 
4 基本八十一本から英語学習の切り口へ

 昭和33年(1958年)朝日に入って、基本八十一本を書道の授業で教わった。
水平線、垂直線、対角線の基本軸。それを包む円周、円心。真っ白の世界に筆の剣で切りこむことのように思えた。難しいことをやさしく、やさしいことを深くすることの輪郭に、及ばずながらも、触れさせていただき幸せであった。
 今になって、英語の文面に向かうとき、段落、行間をタテ、ヨコ、ナナメの筋で区切ること。A,B,C!、緩急三種類の中心点を打つこと。これらが折にふれて浮かび上がり、コンパスの指針になってくれる。
 数年前まで親しんだ草野球のマウンドも、ホームプレート上の空間にそれらの線をイメージして投球できたときは楽しめた。
 この道のりに導かれる背景には、朝日の広大な校庭とその四周を幼時から自由に歩き回り、グラウンドの各コーナーを縦横に走る機会に恵まれた月日がある。
 この切り口が、趣味の生涯学習英語会(「名画・名句の英語会」)の取り組みに基本軸を与えてくれる。横のもの(文章)を縦あるいは斜めに捕えることで活路を開いている。縦糸と横糸を手で編み、タスキを掛けるタッチである。 例えば、”Let it be.” を三行に改行して行頭を縦に揃えれば ”Lib”=自由が見える。ストーリーの展開においても、キーワードでTopを開きBottomで結ぶと落ち着く。上下、表裏の組み合わせである。


「ローマの休日」(Roman Holiday)(1953年、米):

 ファーストとラストのシーンを結ぶ単語に ”Leave” がある。これを鍵として開いて結ぶ。
王女(オードリー・ヘプバーン)が過密スケジュールに反抗して、自由を訴える幕開け。”Leave me! Leave Me!” 楽しい恋の休日も暮れ、公務に帰るラストシーンの離別で毅然と言い放つ。 “I have to leave you now...Just drive away and leave me, as I leave you.”なお、名詞”leave”が休暇を意味するのは偶然か。作者は意識したのか。
朝日の「写真で綴る百三拾年」誌に掲載の「シネマディクト」(映画部刊)の表紙にヘプバーンが見える。


「風と共に去りぬ」(Gone with the Wind)(1939年、米):

 南北戦争下。誇り高きヒロイン、スカーレットのファーストシーン。楽天的な言葉で開ける。
“War, war, war...I’ll think about it tomorrow.” 戦争など起きるはずがない。
好戦的な従兄弟たちを無視する。
戦争の辛酸をなめた挙句のラストシーンの彼女の言葉は、“After all, tomorrow is another day.” “tomorrow”で陽気に幕を開け、open-endingの ”tomorrow” へ。 
今、このようなアプローチを心がけ、上記ミニサークル英語会でコーチをしている。


「名画・名句の英語会」 
「第三の男」ファーストシーンの構図

「第三の男」(The Third Man)(1949年、英):

 冒頭のナレーションの結びに、「影の主人公」ともいうべきHarry Lime の名前が出る。
 終盤近く、街角に身をひそめていたLimeの顔へ上階から一瞬の電光が射しこみ、お尋ね者が生きていたことがばれる。20年来の親友との再会。二人が観覧車 the Great Wheelの窓から地上を見下ろすシーン。
光と影が横顔に交錯する中、Lime が “limelight” という謎の言葉を使う。
大きな円が四角な広場の上をゆっくり回転。”curtain”という言葉も添えられる。
幕が下りるまでは “old limelight” (懐かしい光)を旧友と共に浴びていたいということか。隠れていた姿に予期せぬ光を浴びせられた恨みか。その両方の掛け言葉か。
 大戦後の東西冷戦下、米英露仏四カ国の管理下にあるウィーン。
コンクリートの瓦礫の山を背景に、ファーストシーンのナレーションは、Harry Lime に触れながら町を俯瞰する。
“The city is divided into four zones...
But the center of the city - that’s ...policed by an international patrol...”
“Vienna doesn’t really look any worse than a lot of other European cities, bombed about a bit.”
 Limeの名前は、“limelight”とオーバーラップして、光と影の映画と言われるこの作品を象徴するネーミングと想われる。
映画英語に単語の二重の意味を発見すると興味が倍増する。
ストーリーの焦点にあるキーワードを裏返して見ると、コインの表と裏の顔がそろう。野球のイニング(回)が、Top(表)とBottom(裏)の組み合わせであるのと同じトリックである。
 Topのナレーションで、なぜ “the center of the city - policed by ...”と町の中心点に目を向けたのか? 
堂々巡りの捜査のあげく、ラストシーン(Bottom)の謎解きが、町の広場、squareの中心点centerに目を落とすことから始まる。
 野球のダイヤモンドにたとえれば、ど真ん中、マウンドの足下にミステリーのヒントが隠れていたのである。


結びに

 春の選抜高校野球の大会歌は、「いまありて」。
「新しいときのはじめに、新しい人が集いて...」で始まり、「いまありて未来も扉を開く、いまありて時代も連なりはじめる。」で結ばれる。
朝日高野球部のご健闘を切にお祈りする。


  岡山朝日高校同窓会公式Webサイト