また、アーチェリー部の顧問として、学生諸君と一緒に試合に出たりもしています。（アーチェリーは非常にマイナーなスポーツですが、先頃のアテネオリンピックで山本博さんが銀メダルを取ってくださったお陰で、人気が出てきたのは喜ばしいことです。）
平素２０才前後の学生達と付き合っているので、気分だけはいつまでも若いままでいられると思っています。
アーチェリー
数年前に、大学からの高校訪問（いわば外回りの営業です）で朝日を訪ねて、進路担当の先生と昔のことなどお話ししました。建物はだいぶ変わったとはいえ、あちこちに昔の面影が残っていて、ちょっと切ないような気持ちでした。 私が岡山朝日高等学校に入学したのは１９６８年（昭和４３年）です。正門から入ったところの木造校舎の、床を踏み抜きそうな教室で授業を受けました。２年生の時から、校庭の北側の新築の校舎に移りました。２年生のクラスは男子が理系、女子が文系という変則クラスで、女子が随分多くて楽しいクラスでした。 当時は（今も？）先生方ものんびり悠々としていらして、授業がよくお休みになっていました。しかし、英語でシェイクスピアの「真夏の夜の夢」を習ったり、数学でも関数のテイラー展開を教わったりして、授業のレベルは非常に高かったと思います。 １年生の時から化学部に入って活動していました。（今回、化学部のホームページを懐かしく拝見しました。）毎週土曜日には、授業後まずうどん屋さんでうどんを２杯食べてから、化学棟（正門を入って左の方でした）にあった部室に行っておしゃべりや卓球をやり、気が向いたら、ちょっと今では考えられないような過激な実験（内容は秘密です）もしていました。難しい本を買い込んで、量子がどうの、不確定性原理がどうのと粋がっていたことを思い出します。 当時の朝日高では、毎年創立記念日に有名な先輩を招いて講演会がありました。何年生の時か忘れましたが、比叡山かどこかの偉いお坊さんがいらして、「つまらんことは負けとけ」という話をされました。これがなぜかずっと頭に残っていて、以来つまらないことだけでなく、大事なことでも負け続けているような気がします。 結局私は、大学で（化学ではなく）数学（整数論）を専攻しました。高校時代から、何の道具も使わずに頭の中だけで出来る数学は好きでしたが、自分の職業になってみると、（どんな分野でもそうでしょうが）好きというだけではどうにもならない厳しい世界であることが分かりました。 解けるかどうか分からない問題を、何日も何か月も時には何年も考え続けて、運良く解けたとしても、もし過去に誰かがやっていることが分かれば、業績としてはゼロになってしまいます。また、自分が四苦八苦しているような問題を、苦もなくあっさり解いてしまうすごい人がそこら中にごろごろいます。 しかし、ささやかな結果であっても、世界中の（多分）誰もまだ知らないことを発見し理解する喜びは、何物にも換えがたいものだと思います。
内田百閒
終わりに、最近読んだ本を２冊紹介します。 ひとつは、内田百閒の「たらちおの記」（ちくま文庫）です。ご承知のように、内田百閒は岡山一中卒業の先輩であり、その生家は（朝日高のある、まさにその）古京町の造り酒屋です。この本には、百閒が故郷を思って書いた随筆が集められています。我々にはなじみの深い朝日高（当時旧制六高）界隈の地名や、岡山の風物がそこここに出てきます。 昔の話なので今どきの高校生諸君には馴染まないかもしれませんが、年配の卒業生の皆さんが読まれると感慨深いものがあると思います。 もう一冊は、これも朝日の卒業生の小川洋子さんの「博士の愛した数式」（新潮社）です。（小川さんはこのホームページにもメッセージを寄せていらっしゃいますね。）内容は、記憶を失った数学者と、家政婦として雇われた女性（とその子供）との、心の交流を扱ったものです。数学や数学者のことが情感を持ってとてもよく描けていると思います。機会があったらどうぞ読んでみて下さい。 岡山へはお盆の頃に家族と実家に帰るくらいで、普段岡山弁を使うこともないのですが、子供を叱るときに思わず、「なにゅうしょんなら！」などと叫んでいます。今度岡山に帰ったら、朝日高や旭川の土手あたりをぶらぶらしながら、懐かしい岡山弁に耳を傾けてみたいと思っています。
