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オクスフォードサーカス界隈の通勤 |
今回同窓会からお話を頂き、本稿を書かせていただくことになりました。
そもそもの発端は、同窓会名簿が旧住所だった事に文句を言ってやろうと、それまで存在すら知らなかった同窓会HPから事務局にメールしたことがきっかけとなったようで、何だか妙な具合です。
鬱屈した高校3年間を過ごし、「高校時代=楽しく充実していた補習科時代」と思っている自分ですが、こうして寄稿しているところを見ると人並みに母校への愛着はあったようです。
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ミドルセックス病院 |
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仕事風景 |
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Tubeという愛称で親しまれる地下鉄 |
そんな前置きはさておき、現在ロンドン大学のミドルセックス病院と言う所で「心筋症」という病気の遺伝子解析に関連した研究に携わっています。
住居は20kmほど南のサットンというところ(ウィンブルドンに程近い)にあり、電車と地下鉄を乗り継いで中心地のオクスフォードサーカス駅(東京で言うなら銀座4丁目界隈)まで60〜80分かけての通勤です。
ここに至るまでの経緯を述べさせていただきますと、江田五月先輩と同じ小中高校を経て2浪の後に高知医科大学(現高知大学医学部)へ進学。
6年間で卒業後岡山へ帰るか母校に残るか迷った末、高知大学附属病院の「老年病科」に入局しました。名前からはのんびり老人医療でもやってるところかと思われるかもしれませんが、その実は四番目の内科教室として循環器を中心に担当し、TVドラマにある緊急救命室みたいな事もよくやってるバリバリの循環器内科の教室です。
入局以来9年を経ましたが、途中で大阪の国立循環器病センターへ3年間修行に出た以外は大学病院に勤務しました。留学直前まで大学病院助手として一部の病棟責任者を務めながら外来診療、心臓カテーテル検査、ペースメーカー手術等々の傍ら、若手医師や医学生の教育等々多忙に過ごす毎日を送ってきました。
今回当科のメインの研究テーマである心筋症について新たな知見を得るべく、この分野の世界的権威であるW.J.McKenna教授の下に留学することになったというわけです。
渡英直後はロンドン大学心臓病院というところで臨床的な仕事をしていましたが、現在は遺伝子解析に焦点を絞って専らラボワークに没頭しています。
少しややこしくなりますが「心筋症」という病気について述べさせていただきますと、心臓の筋肉そのものが何らかの原因により異常をきたし、結果として心臓の機能にさまざまな支障をきたす病気です。
よく耳にするところの心筋梗塞や狭心症などの「虚血性心疾患」は結果として心筋がダメージを受けるものの、その原因は心筋に血液を供給する冠動脈の異常であるため、根本的に異なる病気です。
主に取り組んでいるのが、いくつかある心筋症の種類の中でも「肥大型心筋症」という、’心臓の筋肉が厚くなってしまう病気’です。
遺伝子異常が主な原因とされ、約半数の患者さんは身内に同じ病気の人がいます。大半の患者さんは心臓が分厚いというだけで何事もなく経過するのですが、中には何らかの臨床症状を伴い、最悪の場合には突然死する悪性のものも混在しています。特に問題となるのが、健常と思われていた20代、30代の人が突然死するケースがあり、欧米では社会的問題として認知されつつあります。
また肥大型心筋症全体では一般人口の500人に1人という高い有病率で、心臓超音波等で初めて判明する事も多いことから、さらなる社会的啓蒙が必要な情勢です。
我々の研究の目標は的確な診断技術の確立と、突然死等の予防というところにあり、さらにその先の将来には遺伝子治療ということも視野に入ってくるかもしれません。
余談になりますが、有名スポーツ選手が検査に訪れる事もあり、心臓病院勤務時にはプレミアリーグでプレーする某国サッカー代表選手の検査をすることがありました。
有名人に関わるのはスキャンダルの渦中で病院へ逃げたと噂されるも、その実は本当に重病だったという同情すべき某府知事以来でしたが、過密スケジュールの中で訪日し日本代表と試合をしてくるという彼に「無理しないでがんばって」「いやほとんど観光みたいなものだから大丈夫」等とやりとりしたのもいい思い出です。仕事はこんな感じで楽しんでいます。
こちらに来て’予想通り’に予想外の事が多々ありました。人種、地理気候、英語等の食い違いは特に印象的でした。
人種については米国並みの多民族社会が形成されており驚きました。
歴史的に見ればかつて大英帝国として多くの国に宗主国として君臨していた名残らしく、インド系(特に多い)、アフリカ系、アラブ系、中国系、ジャマイカ系の人たちが祖父母や父母の代から移住して英国市民として暮らしています。もっと地方に行けばこれほどではないのかもしれません。
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ロンドンアイからの眺め |
身長は白人も含めて案外高くなくおよそ日本人サイズで、満員電車内で頭のギリの向きを観察できるくらいですが、そうはいかない185cm超級の人も2-3割程度いるので平均すると大きくなるのかもしれません。女性は綺麗な人が多いのですが、半数くらいは日本の肥満の基準を満たしていると思われます。
地理気候的な事項ではとにかく通り雨が多く、ほとんど毎日15分足らずの小雨に出くわします。古来英国紳士のアイテムとして傘が欠かせないのももっともな事と納得させられます。
昨年は記録的猛暑と騒がれましたが日本のジトジトとした酷暑からすると快適なものでした。緯度が20度北に上がっただけですが、夏冬の日暮れの時間差は大きく、冬は16時にはもう暮れ落ちるのに対し盛夏は22時近くにやっと日が暮れるという調子で、街も人も時計をほとんど持たない中、さらに時間の認識に困ることになります。
英語と米語の違いも予想以上で、興味深い感すらあります。強引にカタカナで表現するならば、Can=カン/Often=オフトン/Eight=アイトのように発音し、地下鉄=UndergroundもしくはTube(Subway=地下道)/アパート=Flat/フライドポテト=Chips(ポテトチップス=Crisps)等のように用語にも多くの違いがあります。あと日本人が思う以上にいわゆるカタカナ英語は全く通じない事は深く銘記すべき事柄でした。
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衛兵の交代式 |
渡英前から物の考え方や価値観の違いには興味津々でしたが、やはり一度は経験してみるもんだと実感しました。日本人や日本文化の何たるかを別の方向から認識させてくれるものでした。
人々が生きているスタンスを一言で表現するなら”自分は自分”という感じでしょうか。良くも悪くもマイペースで人にどう映っているかなどは気にしません。休暇もしっかり取ります。また何をするにしても人と異なる事は全くおかまいなく、自分の価値観に忠実です。ある局面においてはこうした態度も大事かなと思わされてしまいます。
他人の目が気になる日本人としては”日本がどう評価されているか”が気になる所ですが、一言で言うと「興味が無い」というのが実際のようです。
日本製品に由来するブランド的イメージやそれなりの尊敬の念はあるようですが、多くの一般人にとってはあくまで’Far East’の一小国以上のものではないようです。
特に私にとって象徴的だったのが、いつも見比べるBBCニュースと衛星経由のNHKニュースとの違いで、英国の出来事がわりと扱われるNHKに比べBBCで日本の事が扱われたのは皆無に等しいということがあります(ブレア首相訪日すら扱われず)。こうしてみると世界の関心の中に占める日本への関心の割合は本当に些細なものなのかもしれません。
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サットン(右手のフラットの2階、玄関より右側部分が自宅) |
こんな中ではそのつもりでなくても”日本人はどうあるべきか”などと考えてしまいます。残念ながら聞いていたほどには英国紳士、淑女を見かけずにいますが、自分自身は’ブシドーの心をもったジャパニーズジェントルマン’として涼やかにカッコよくありたいと変にリキんでみたりしている今日この頃です。
取り留めのない寄稿となりましたが、最後に諸先輩方におかれましてはいつの日か郷里へ再就職する際に頼りにさせていただきますので・・とこの場に便乗して個人的なお願いをさせていただいておきます。また在校、卒業を問わず後輩諸君におかれては、私のようなもので何かお力になれることがありましたら気軽に声をかけて下さい。と少しは卒業生らしい事も申し上げつつ筆をおかせていただきます。ありがとうございました。
人見 信彦
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