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国内で活躍する同窓生(敬称略)
横山 博昭(平成7年卒) 東京都在住

心 の 動 き

Shift 2007 Calendar Competitionに
採用された作品。
LIVE MY LIFE。


 この度は、僕のような者の文章を掲載して頂き、関係者の皆様には大変感謝しております。ありがとうございます。
僕は今、東京都豊島区に住み、morldという名前でフリーランスのDESIGNERをやっています。仕事では主にWEBデザイン、ロゴ・CIデザイン、サイン計画といったグラフィックデザインに携わっています。morld(http://www.morld.jp/)という自分のWEBサイトの運営もやっています。
今回の寄稿では、高校時代から今に至るまでの道のりを辿っていき、僕の心の動きを思い出し、まとめました。

 僕が朝日高校に入学したのは1992年です。入学早々、僕の人生に大きな影響を与えたことがありました。僕がその時まで何となく心の中で感じ行っていたことを、孔子がまさにそれだという言葉にしていたのです。
「己の欲せざる所、人に施すこと勿れ」
この言葉を知って、言葉にできていない自分の心の中にあるこの事実は、表現することができるものだと知り、表現したいと強く思いました。この時の感覚は今も尚、鮮明に残っていて、僕の中に深く根付いているように感じます。

 高校生時代は3年間、弓道部に所属していました。狙って射ても思うように当たらない弓というものは、僕の性格にはあっていたようで引退するまで熱中していました。学校の敷地の端にある弓道場は、大きな樹木に囲まれた大変静かなところで、集中することに適した環境でした。夏の木漏れ日の中、蝉の声はとても騒がしいのですが、自分の心はそれと対照的に静かであった瞬間があり、そのことが印象深く心に残っています。

 当時の話からは少しそれますが、最近、小川洋子さんが朝日高校弓道部に所属していたということを知りました。ほとんど小説を読まない僕が、高校生の頃から小川さんの小説だけは好きでよく読んでいました。小川さんの小説はどれでも、読んでいるうちに何やらネットリとしたものに身を包まれる思いがします。同じ部に所属していただけで、小川さんと僕は何の接点も無いのですが、小川さんも同じ場所にいたのかと思い、単に嬉しく思いました。

 朝日高校は、幼少の頃から僕が縁深かった場所である岡山城や後楽園に近い立地であったので、下校時などによく立ち寄っていました。大学を選ぶタイミングの高校生時代に、後楽園へ再びよく行くことになったことで、公園をつくってみたいという気持ちが生まれ、大学では建築の勉強をすることを選びました。

アヴァンセ西葛西。
各住戸の玄関に模様がついています

 千葉大学工学部建築学科に入学が決まり、1995年より千葉で一人暮らしを始めました。大学では、様々な物事に対して「何故それがそこにそうしてあるのか」ということを考え続けることで、僕の中にものをつくる根本ができたように思います。
また、1年留年した5年目に大きな壁に出会いました。心の中にあるこの事実を人に伝えるには、表現がとても大切で、僕にはそのための表現力が足りないと感じたのです。

 その頃から同時に、僕の中にある建築に対する考え方は変わり、壁や屋根のあるいわゆる建物というものを建てることだけが建築なのではなく、ただ壁にポスターを貼るだけでも空間はできる、それは建築と呼べるのではないかと考えました。
それを考え続けた結果、この世にある全ての物事は建築であるという考えが僕の中でできていきました。
例えば、あるルールに則った共同生活においてのルールも建築であるし、あるプロダクトを持った人が行き交う街においてのプロダクトも建築であるというような考えです。
物理的もしくは精神的であるかは重要ではなく、「何故それをそこでそうするのか」「人がそれを眼前にして何を思うのか」について考えることが重要であると僕は考えています。
また、それらをきちんと考える中でこそ、つくりだしたものを含めた、取り巻くすべてを愛せると考えています。
 
      
高円寺にあるカフェ mizutamaのサイン。

 僕の中で一般的な建築という枠組みが消え、僕が今やりたいことは建物を作ることではなく表現を考えていくことだと感じ、大学卒業後は印刷物をつくる会社でパソコンを使ってできる表現や文字の表現について学び考えることにしました。
その後デザイン事務所など3回の転職を経て、世の中の流れか、はじめは印刷関連の仕事をしていたのですが、インターネット関連の仕事にも携わるようになっていました。そして2004年よりフリーランスとして活動を始めました。

 会社員として働いている間は過酷な労働条件の中ではありましたが、色々な経験・体験をすることができ良かったと感じています。
その中で僕は、今の世の中では合理化という名の簡略化・省略化が行われていて、それが人の心に大きく影響を及ぼしていると感じました。
僕は真の合理化がどのようなものであるかは理解できていません(ですので、もしかすると僕も気がつかない所で簡略化を行っているのかもしれませんが・・・)。しかし、簡略や省略は空虚な何かを生み出しますし、逆に、素晴らしいと思える合理化の結果がまだ世の中にはたくさんあります。おそらく、合理化という言葉に置き換えることで正当性を持てることが多くの人にその言葉を使わせているのだと、僕は理解しています。

 その簡略化・省略化の中では、必要・不必要を見直すこと無く、目につく気になることだけに執着し、結果としてやさしさを失ってしまったものがたくさんあるように感じます。
例えばその一部分だけ取り出すとコストは下がっているのかもしれませんが、自分の目に写らないところに皺を寄せただけのことが多いのです。もちろん場合によっては、コスト以外の面にも影響を及ぼしています。それを合理化と呼んでいるケースが、僕が関わったプロジェクトの中にはたくさんありました。

 そんな中、僕は僕の立場が許す限り、深く深く問題を抽出することを心がけていました。
僕の中で抽出された問題は、ほとんどの場合、その前提を覆してしまいかねないものが多く、短期的な仕事の中ではその問題を全て解決できたことはありません。
ですが、僕自身が感じる僕の長所は、微細であっても重要な違和感を感じる能力です。
僕にしか感じることができない、僕のこの中にある事実を、色々なものをつくり続けることを通して、世界に対して表現していきたいと思っています。
この、僕のもののつくりかたをそのまま表すように、worldのwをひっくり返してmorldという名前で、僕はDESIGNERとしてフリーランスの活動をしています。
 
       
morld.jpの色を集めるプロジェクト。
全世界から人間の好きな色が集まっています。
2006年末現在で約1000名が参加。

 フリーランスの活動の一環として、僕が運営するWEBサイトmorld(http://www.morld.jp/)の中で僕は、インターネットの持つ「圧倒的な不特定多数の情報を集める能力」に着目し、その能力を意識したプロジェクトをやっています。

 今、インターネットは、リアルタイム・双方向・ユビキタス・コミュニケーション・合理化などをキーワードに様々な形態で利用されています。しかし、人々にとってのインターネットは未だにあやふやなもので、仕事でどっぷり使っている人もいれば、信頼していない人もいる、全く利用していない人もたくさんいるでしょう。

 本来メディアとは、一つの本質的な驚くべき能力を持ち、それが受け入れられて行く過程で様々な利用形態が付加され、相乗効果をもって世界中に浸透していくものだと僕は考えています。
今のインターネットは、本質的な能力が直視されること無く、付加されたもののみで構成されているように感じます。
そのため、いつまでもあやふやなものと捉えられ、利用者の層がはっきりとわかれた使われ方をしているのだと思います。

 もともとこの「圧倒的な不特定多数の情報を集める能力」は、「世界が繋がる」や「休まない店」といったように様々なところで謳われていました。
ですが、インフラの不整備や、人々(利用する側も提供する側も)が新しいものに慣れていない状態などが原因で、「結局そんな風には使えないじゃないか」という認識をもたれてしまった結果が今です。この状態のインターネットに対して、僕はその能力が存分に発揮されていないと感じます。そして今は、以前に問題のあったインフラや慣れも、ある程度はクリアされた状態にあると感じています。

 そこで、この状態を抜け出しインターネットを新たなステップに押し進めるため、「圧倒的な不特定多数の情報を集める能力」に改めて着目して、インターネットを世の中にきちんと定着させたいと考えました。その第一歩としてのWEBサイトがこのmorldです。

 このWEBサイトには、完全に僕の私的な意思・情報しかありません。
しかし、例えば「人間の好きな色が知りたい」と思う気持ちに、インターネットは応えることが出来るということを世の中に提示することができれば、インターネットはその驚くべき能力を遺憾なく発揮しはじめて、世界に浸透していくのではないかと考えました。
この提示するものとしては何らかの損得を含んだ情報ではなく、人間が今まで以上にまさにその人間を知ることができる状態を想像させることが必要で、これが今の世の中にインターネットを響かせていくことができるものだと考えました。

 もしこのプロジェクトに興味のある方はmorld(http://www.morld.jp/)にアクセスし、プロジェクトに是非ご参加ください。また、詳しくは僕のブログ(http://journal.morld.jp/)でも書いていますので、興味のある方はアクセスしてください。

      
miomio ららぽーと豊洲店。
壁の植物模様を描きました。
店舗で使用する紙袋などの包材にも
同様の模様を施しています。
写真:makoto ozaki

 最後に最近の活動を少し紹介します。

・ mizutama[カフェ/東京の国分寺]ケーキやフードのレシピ以外の部分はほとんど関わりました。ロゴ・サイン・メニュー・DM・名刺などをつくりました。内装計画は友人の建築家・三宅祐介氏にお願いしました。

・ Shift 2007 Calendar Competition[WEBマガジン主催コンペ(http://shift.jp.org/2007/)]札幌にあるShiftという会社が主催しているカレンダーコンペで、1267人から選ばれた12作品の一つに僕の作品が選ばれました。また、表紙にも採用して頂けました。このカレンダーは世界各国でディストリビュートされています。同じ作品がポスターにもなっています。

・ Web Design Award[デザインポータルサイト(http://www.websitedesignawards.com/)]海外で有名なWEBサイトで、毎月、素敵なWEBサイトを取り上げているデザインポータルサイトです。このサイトの[EDITION 16, October 2006, No.014]に僕がやっているmorld.jpが選ばれました。morld.jpでやっている世界中の人間の好きな色を集めるというプロジェクトは、ここに取り上げられてからアクセスが一気に増え、現在1000人を超える参加者がいます。

・ miomio[雑貨店/東京のららぽーと豊洲内]内装をutac|youskemiyake+takumisugimoto(mizutamaでも一緒に仕事をした三宅祐介氏のユニット)がコンペで受注。僕は店内の空間を区切る壁にグラフィックを描きました。店舗で使用する紙袋やシール等にも同様の模様を施しています。

・ アヴァンセ西葛西[マンション/東京の西葛西]共用部分で目に見えるところにグラフィックを描きました。「くらしに花を添える」がコンセプトです。設計は建築家・冨川浩史氏が行っています。

・ バークレーヴァウチャーズ[福利厚生向けの食券サービス業]設立20周年ということで、WEBサイトのリニューアルプロジェクトがあり、僕はデザインを担当しました。
http://www.barclayvouchers.co.jp/top.php

 今も尚、表現力は足りていないと実感しています。
もう少し言うと、表現力を含めた僕の持つ説得力を強めたいと考えていて、まだまだやれること・やりたいことは山積みです。
これからも、様々なことを考え、つくり出していきたいと思っています。そして、僕のつくったものから、僕が孔子の言葉から感じたように、誰かが何かを実感してもらえるのなら、そんな幸せなことはありません。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


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